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デジタル農業の投資・起業機会

iDiMi-デジタル農業の機会

前書き

伝統的農業では育種・灌漑・施肥・給餌・防疫・輸送・販売などすべて「人」中心で経験頼み。効率低下、変動大、品質ばらつきが生じる。従来の投入だけでは課題を解けず、意思決定を人からデータに移し、デジタル農業で精密管理する必要がある。

デジタル農業はデジタル経済の重要要素。5GやAIの節目で多くは好機と見る。米(Big Data R&D Plan)、英(Agritech Strategy)、独(Agriculture 4.0)が優先。中国でもデジタル農村戦略、新世代AI計画、デジタル農業・農村発展計画が数量目標を設定。

指標20182025年平均(%)種別
農業付加価値に占めるデジタル経済比率7.31510.8目標
農産物EC/総取引 (%)9.8155.5目標
農村インターネット普及率 (%)38.47010.5目標

出典:農業農村部「デジタル農業農村発展計画(2019–2025)」

デジタル経済と産業構造

『Being Digital』(1994)やG20杭州(2016)で広まったデジタル経済は、デジタル技術・ネットワーク・実体経済の融合で成長とガバナンスを再構築する。

技術・生産の進行別に基盤・中核・応用。

基盤: システム(研究プロジェクト、研究所、インキュベーター、投資)とインフラ(通信:ブロードバンド/NB/4G/5G、半導体EDA、ソフト:OS/言語/DB)。

中核: デジタル技術/製品産業(6本柱)

  • ソフト:ソフト、ビッグデータ、サイバー、クラウド、EC、AI
  • 半導体:設計、製造
  • ネット:インターネット、IoT、モバイル、無線、衛星、ナビ
  • エレクトロニクス:PC、携帯、スマートホーム、機器、車載、ウェアラブル
  • デジタルコンテンツ:映画/TV、アニメ、オンライン小説、ゲーム
  • オートメーション:センサー、計器、制御、ロボット、産業ソフト

応用: デジタル技術/製品/手法を農工サービスに適用。

デジタル経済が成長を牽引

ICTを基盤に、インターネットで製品・サービスを結び、家庭・都市・国家のデジタル管理を実現。2018年、米デジタル産業1.5兆ドル、中国デジタル経済31兆元超。

デジタル経済(兆元)GDP比 (%)
20183133
201727.232
201622.630
201518.610

出典:農業農村部「中国デジタル農村報告」

アクセンチュア:デジタル化+10%で一人当たりGDP +0.5〜0.62%。2025年に世界GDPの50%超がデジタル経済に。

デジタル農業とは

スマート/精密/施設/データ農業はいずれも、実験・経験から知能モデルを構築し、センサーでリアルタイム収集、分析・予測で意思決定を高める点が共通。最もわかりやすいのが「デジタル農業」—データを新たな生産要素とし、インターネット/IoT/クラウド/ビッグデータ/AI/スマート機器を近代農業と融合させ、感知・定量判断・知能制御・精密投入・個別サービスを実現、チェーン効率と資源配分を向上する。

農家は作物病害を予測・予防し、土壌・作物状態をほぼリアルタイムで把握、自動潅水・給餌を行う。センサーは小型・高性能・低コストに、ネットは高機能・高セキュリティに。未来は接続とデータで効率と収量を最大化する。

中国農村のデジタル経済

インフラ: ブロードバンド中国と普遍サービスで2018年末に行政村光ファイバー96%、4G 95%。

農村ネット民: 2.22億人(2018)、普及率38.4%、前年比+3pt。

デジタル需要: 情報拠点29万、情報員62.5万人;公共サービス7100万件、便民サービス2.22億件;EC取引178億元。

公共農業データ: 経営主体・自然資源・重要生物資源のDB;重点品目の全産業チェーンデータ。

作付デジタル化: 全国農情情報プラットフォーム;技術指導を充実;作付情報収集・技術発信・投入品トレーサビリティの行政プラットフォーム。

畜産デジタル化: 「規模畜産クラウド」「デジタル酪農クラウド」;獣薬QR追跡;動物IDと疫病追跡。

漁業デジタル化: 資源環境の動態監視、デジタル装備の試行、国家種質プラットフォーム。

種業デジタル化: China Seed Big Data Platform、第2位の作物種質DB、「金種子」商業育種ITプラットフォーム。

農機デジタル化: 北斗による精密作業、「空・天・地」一体化監視、精密管理、公的サービス。「農機直通車」プラットフォーム/アプリ、「滴滴農機」、トラクター/深耕機にセンサー、補助金の情報化監視90%、統一台帳、オンライン修理学習。

加工デジタル化: 加工品質DB、監視・予警プラットフォーム。

新経営体: 家族農場名簿システム(59万超)、合作社デモ6800+のモニタリング。

農村EC: 2019年EC法で農産ECと貧困削減を促進。2018年農村EC企業980万、ネット小売1.37兆元(+30.4%)、農産EC5542億元(農産総取引の9.8%)。

農村電子政府: 環境整備、ガバナンス、資産・土地の公開透明での革新。

デジタルサービス: 無形文化遺産のデジタル保存、オンライン教育、遠隔医療、包摂金融。

機会と課題

デジタル農業は生物・環境要素、プロセス、農村ガバナンスのデジタル化という大変革。IoT/AI/Big Data/クラウドが生産・生活を変え、産業を再編し、デジタル経済の共識を固める。進展(とくにEC)はあるが、農業付加価値への寄与は低い。

促進要因

環境: 温暖化・水不足で2050年に大豆・トウモロコシ主産地の収量が18〜23%減、アフリカは2080–2100年に15〜30%減も。

需要: 国連推計2050年人口91億、食料生産+70%(バイオ燃料除く)。穀物約30億トン、肉4.7億トン。80%は単収・作付強度、20%は耕地拡大。

バイオ燃料: 政策がバイオ燃料を後押し、砂糖・トウモロコシ・油糧の需要増が価格を押し上げ。

効率: デジタル技術でコスト・労力を削減し、種・肥・農薬・人材を最適化。エネルギー・燃料も減り、時間とリソースをバランスして収量最大化。

制約

分断市場: 点的ソリューションが多くスケールしづらい。途上国では統合サービス主体が不足し、農家は単品買い。

技術未熟: 農業R&DのROIは高いが投資不足。技術・応用のボトルネック、イノベーション力不足、農業用センサー不足、ロボット・農機の適応性低。

大型投資: 持続可能なデジタル農業エコを築くには多額の初期投資が必要。中国/ブラジル/インドでは農家が正当化しづらく、中国の請負制は長期投資意欲を下げる。

データ欠如: データは基盤だが、資源・生産データが不足。政府主導で収集・利用標準を統一し普及を図る必要。

利用者ハードル: 60%以上の農家がカバレッジ不足と高コストを課題に挙げる。導入期間の長さや帯域制限も。

機会

スマホ+ネット: 農家がスマホで情報収集・知識共有、マルチ言語リソースがベストプラクティスを広げる。農業農村部サイトは1日300万超のクリック。

官民連携: 政府・国企が加工・金融・外食・EC・テックと協業し、収量・安全・効率・市場を伸ばす。高度技術と管理をもたらし新収益源に。広がればデジタル農業が加速。

技術依存: LPWA/Zigbee/Wi-Fiなどの接続と無線センサーで調達・在庫・作付・収穫を計画。

バリューチェーン

機器メーカー、ネット事業者、アプリ提供者、ホスティング/分析、無線通信、モバイルオペレータ、SIが連携。センサーがデータを集め、LPWA/携帯網が伝送、SI/ソリューションが処理しアプリで届ける。

商用アプリ

精密農業

IoT+ICTで収量最適化と資源節約。圃場/土壌/空気のリアルタイムデータで環境と利益を両立。

可変施用 (VRT)

可変制御+機械で区画ごとに適正量を適正なタイミング/場所で投下。

スマート灌漑

湿度・土壌水分・温度・光を測定し必要水量を算出、効率向上。

ドローン

作物健全性、面積、可変施用、家畜管理。低コストで広域監視、センサーでデータ取得。

スマート温室

温度/湿度/光/土壌を監視し、自動反応で最適環境を維持、人的介入を最小化。

収量モニタリング

流量、水分、収量を測り、意思決定を支援、コスト減・収量増。

FMS

センサー/トラッキングデータで収集・管理し、保存・分析して複雑な意思決定を支援。ベストプラクティスや提供モデルも導出。メリット:財務・生産管理の強化、天候・ショックリスクの緩和。

杭州・雲合智聯は農家中心のサービスを構築し、農業テックとデジタルを融合:作物・商流洞察に基づくプラン、時間・リソースのバランス、コスト低減、能力向上。

  • 作付: 環境モニタ+作物モデル+精密制御で労働依存を削減。IoT+AIでスマートなスケジューリング/監視/作業、差別化生産。
  • 管理: ビッグデータ+AIで「デジタル」意思決定。予測可能で調整可能、収量・品質を両立。

土壌モニタリング

土壌品質を追跡・改善し、侵食・締固め・塩害・酸性化・有毒汚染を防ぐ。物理・化学・生物指標(質感、保水力、浸透など)を測定しリスク低減。

精密畜産

繁殖・健康・行動をリアルタイム監視し収益最大化。データに基づき群管理を改善。

病害虫検知

迅速モニタと早期警戒が鍵。従来の目視は主観的で遅い。現代技術がデータ取得・伝送・処理を支える。

技術

BP型ニューラルネットは非線形パターン・予測に適する。入力/隠れ/出力層が脳を模倣し、重みで分散処理。物理・環境因子は非線形に作用するため、自己学習・適応性の高いNNが有効。

例:Jin Ranらは1980–2006年の小麦アブラムシと気象因子でBPを構築し、2007–2011年の最大虫株率を96.09%で予測。Klemらは気象/土壌温でキャベツゾウムシ発生を97%精度。李波らはPCAスペクトル+確率NNで稲線虫・稲葉巻を95.65%識別。

課題

BPは収束が遅く、隠れ層サイズが経験的、勾配降下で局所解に陥りやすい—最適化や他手法との組み合わせが必要。

例:張芳群らはPLS-GA-ElmanハイブリッドNNで陝西のトウモロコシヨトウ(1988–2013)を予測、5年相対誤差0.0661–0.1222%。曹志勇らはPSOでパラメータを最適化したハイブリッドNNで稲熱病をモデル化、最大誤差<0.001。

NNとモデルの組合せも:楊淑香らは逐次回帰+BPで東部内モンゴルのマツハバチ分布・密度を推定。温芝元らはファジィ+NNでネーブルオレンジ病虫害識別。譚文学らは深層学習+モーメンタムで果樹病害のリアルタイム警告・診断。多チャネルNNでキュウリモザイク。Kouakouらは光学指紋+多チャネルNNでキュウリウイルス検出。

Monsanto+DataRobotは病害虫画像認識を95.7%で達成し専門家より速く精確。RessonはAIで病害虫を監視しトレンド警告。雲合智聯はUAV+マルチスペクトル+画像認識で病虫や健全度を30分で300ムー検出、精度95%。

設計育種

種子は戦略資産。設計育種は遺伝学とバイオインフォ、大データ、AIを融合し、分子設計育種が主戦場。

遺伝子検査+変異データで形質遺伝子を迅速発掘し表現型を予測;ゲノム編集で耐性・多収など新形質を付与;AIで優良対立遺伝子の組み合わせを設計。

農業ロボット

  • 接ぎ木ロボット: スイカ・トマトでは連作障害回避に接ぎ木が重要だが労力と成活率が課題。TGR研究所(日本)のウリ科接ぎ木ロボは適合苗を自動検出し欠陥苗をスキップ、成功率98%。
  • 除草ロボット: 除草剤多用は土壌固結・耐性を招く。CVで土壌・植物を分離し、苗と雑草を区別、ターゲットを特定し機械的除草を連続実行。
  • 収穫ロボット: 果実手摘みはコスト高で繁忙期に人手不足。OCTINION(ベルギー)のイチゴ収穫ロボ(Dribbleプラットフォーム)は温室内を改造なしでナビし、CVで熟度判定し3秒で収穫、熟練工並み。
  • 自動運転トラクター: Caseは2016年Magnum T8を自動化、単独または従来機と協働。レーダー/LiDAR/カメラで障害物を検知回避、経路計画、遠隔操作、燃料・種補給で自動帰還。
  • 播種ロボット: アイオワのDavid Dorhout作「Prospero」はセンサーで土壌を読み、アルゴで最適密度を算出し自律播種。複数機で編隊作業し効率向上。
  • 非破壊検査: 画像処理でサイズ・形・色を測り品質選別、作物を傷つけない。
  • 植物工場: IoTで温室データを収集し、ビッグデータ+AIで環境・施肥を最適化、収量・品質向上、労力削減、収益改善。将来の宇宙拠点(火星など)にも必須。
  • 畜産: カナダCainthusはカメラ映像で牛の顔・体を解析し感情・健康を評価。オランダConnecterraはウェアラブル+固定センサーで健康・発情を検知。

イノベーター

Nano Ganesh(インド): Water Pump Control 23—携帯でポンプを遠隔制御・警報。電力変動、悪路、野生動物、危険、露出配線、感電、侵食に対処。貯水・水源の協調不足も解決。

効果:年18万m³の水、1080MWhの電力、180m³の燃料、18m³の土地を節約、労働費72万ドル削減。

コロンビア通信: Telefónica/Movistar/Claro/Tigoがバナナ農園の監視を支援。洪水、低酸素、湿度高、低温が課題。

効果:収量+15%、環境・農業の持続性向上、トレーサビリティ強化。

VinaFone(ベトナム): Viettel/MobiFone/VinaFoneが無線センサー→プラットフォーム→クラウドのデータ伝送を支援。大規模養殖場の導入前:

  • 稚魚2000kg、6か月後収穫3万kg、価格1.5ドル/kg、売上4.5万ドル。

効果:死亡率40–50%減、6か月収穫42–45千kg、売上6.3–6.75万ドル、コスト18–22.5千ドル削減。

Telefónica(スペイン): GPRSでバルブ/メーター/水位計をつなぐ自動潅漑を展開、2.1万ha超で手動は不可能。ABBとリモート潅漑を構築(PC+携帯、GPRS+遠隔計測)。

効果:年間47hm³の節水、農場利益25%増、電力コスト30%減。

参考文献

  1. CAICT:デジタル経済白書(2017)
  2. デジタル経済連盟:デジタル経済ブルーブック(2019)
  3. FAO:How to Feed the World in 2050(2009)
  4. Huawei:The Connected Farm(2017)

公開日: 2025年11月20日 · 更新日: 2025年11月23日

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