小売の簡史
小売は最終消費者(個人や団体)に財・サービスを提供する産業で、核となるのは人・貨(商品)・場である。単一の革命はなく、技術に呼応して反復的に進化してきた。小売の存在によって人間のニーズは満たされ、同時に小売は技術進歩を後押しした。概ね5段階をたどる。
1)物々交換の段階。余剰が生まれると交換の動機が生じる。これは小売の萌芽だが、交換できる品目と半径は限定的。価値の共有理解が価格を生む。
2)一般等価物(貨幣)の出現。家計や個人の分業が進み、傷みやすい作物などでは物々交換の同時性が崩れるため、貨幣が生まれた。貨幣により一対一の交換を超え、労働や品物を貨幣に替えて別の財を得られる。保存性の制約を外し、分業と生産性、バラエティを押し上げ、職人は道具を改良した。市(いち)や店舗が現れ、小売が本格化。
3)第一次・第二次産業革命。蒸気機関が手工業から標準化工場へと駆動し、競争とブランドが生まれる。鉄道・蒸気船が近代貿易とダンピングをもたらす。電力・内燃機関・新素材が供給を豊かにし、小売は繁栄期へ。
4)電子商取引の時代。地域制約と情報の非対称性を和らげ、最適価格で購入でき、初めて公開レビューのチャネルが生まれた。
5)ニューリテール。2016年、アリババの馬雲(ジャック・マー)がオンラインとオフラインの融合(物流・ビッグデータ・クラウド活用)を提唱。10〜20年後には“電子商取引”ではなくニューリテールが主流(60〜80%)になると語り、2018年には主に消費財小売を指すと補足した。
ニューリテールの要は“場”だ。モバイル・IoT・AI・近代物流でオンライン/オフラインをつなぎ、行動データを取得して消費者を感じ取り、全行程トラッキングと精緻なプロファイルでパーソナライズを実現する。
30年後、私たちは現在の業態を骨董品のように見るかもしれない。
公開日: 2025年9月18日 · 更新日: 2025年10月26日